AALAフォーラム2024(35周年記念フォーラム)

AALA 35th Anniversary International Forum

「アジア系トランスボーダー文学と(ポスト・)コロニアリズム」
――“Transborder Asian Literature and (Post-)Colonialism”――

日時(Dates):2024年9月21日(土)~22日(日)<Sep.21-22, 2024>
会場(Venue):神戸大学六甲台第2キャンパス 人文学研究科B棟3階B331教室(Room B331, Humanities Building in Kobe University 2nd Rokkodai Campus)Map

第1日目 9月21日(土) Day One:September 21(Saturday)
※ 1日目総合司会(The 1st Day Coordinator):古木圭子Keiko Furuki(奈良大学 Nara University)

◆13:00~ 受付(Registration)

◇14:00~14:15 開会の辞(Opening Speech):山本秀行 Hideyuki Yamamoto(AALA会長 AALA President, 神戸大学 Kobe University)

◇14:15~17:30 基調講演(Keynote Lecture):
“Good Enough?: Shrugs, Indifference, and Disaffection in Minoritarian Elliptical Lives”
講師(Lecturer):Prof. Martin F. Manalansan IV(Rutgers University, USA)
特別ゲストコメンテーター(Special Guest Commentator):Prof. Allan Issac(Rutgers University, USA)
ディスカッサント(Discussant): Lyle De Souza(Kyoto Notre Dame University)
司会(Chair):牧野理英 Rie Makino(日本大学 Nihon University)

◇18:00~20:00 懇親会(Reception Dinner)
神戸大学生協LANS BOX 1階食堂(Kobe U Coop LANS BOX 1st Floor Cafeteria)
司会(MC):渡邊真理香 Marika Watanabe(北九州市立大学 The University of Kitakyushu)

第2日目 9月22日(日) Day Two:September 22(Sunday)
※ 2日目総合司会(The 2nd Day Coordinator):渡邊真理香 Marika Watanabe

◆ 9:00~10:00 総会(会員のみ) General Meeting of AALA(only for members)
司会(MC): Michiko Fukai

◇10:00~12:00 個人発表(Individual Presentations):
“Tracing and Retracing: Exploring Identity and Memory in Summer of the Big Bachi
Sophia H. Dickey(Ph.D. Student, Fukuoka Women’s University)
“A Cross-cultural Reading of Kazuo Ishiguro: Perspectives on “World Literature” in Chinese Literary Criticism”
XU Yiran(Peking University)
“Heroines at School in the Works of J. Kogawa, J. W. Houston, and Y. K. Watkins”
Maiko Kato(Aoyama Gakuin University)
司会(Chair): 麻生享志 Takashi Aso(早稲田大学 Waseda University)

◇12:00~13:00 ランチョン(Luncheon)
人文学研究科A棟1階学生ホール(Students’ Hall on the 1st Floor of Humanities Building A)

◇13:00~17:30 国際シンポジウム(International Symposium):
“Performing the Floating Self in Bharati Mukherjee’s “A Wife’s Story””
Nathaniel H. Preston(Ritsumeikan University)
“Ghosts and Palimpsests: War and Translation in Gina Apostol’s Novels”
藤井光 氏 Prof. Hikaru Fujii(東京大学 The University of Tokyo)
“Post/Cold War Sentimentalism: On Taiwanese American Films about Return”
Prof. Chih-Ming Wang(Academia Sinica, Taiwan)
“Hibakusha in Harlem: Anticolonialism, Antiracism, and Anti-Nuclearism”
松永京子 Kyoko Matsunaga(広島大学 Hiroshima University)
“Murakami’s Kafkas: Postmodern, Psychoanalytic, Postcolonial”
Gayle K. Sato(Meiji University)
司会(Chair):Nathaniel H. Preston
特別コメンテーター(Special Commentators): Prof. Martin F. Manalansan IV & Prof. Allan Issac

◇17:30~17:40 閉会の辞(Closing Speech):植木照代 Teruyo Ueki(AALA初代代表 AALA Founding President)

講師紹介や発表要旨はこちらのプログラム(PDF)でご覧いただけます。
Brief introductions of lecturers and abstracts of presentations can be found in the program (PDF) here.

主催:アジア系アメリカ文学会 [Hosted by AALA—Asian American Literature Association in Japan]
共催:日本学術振興会・科学研究費・基盤研究(B)「「アジア系トランスボーダー文学」の包括的研究枠組創成と世界的研究ネットワーク構築」(研究課題番号23K25310, 研究代表者:山本秀行, 2023~2025年度)の助成を受けています。[Co-sponsored by JSPS Grant-in-aid for Science Research (B), 2023-2025 (23K25310, principal investigator: Hideyuki Yamamoto)]

AALA 35周年記念フォーラム参加申込について(How to Register)

フォーラム参加費用:無料 Participation fee: free
懇親会:5,000円 Reception Dinner: 5,000 yen
ランチョン:1,000円 Luncheon: 1,000 yen
※なお、フォーラム前々日から前日までは50%、当日は100%のキャンセル料がかかります。費用は、当日お支払いいただきます。Cancellation fee will apply after September 19th.
※宿泊が必要な方は各自で手配してください。秋の行楽シーズンで宿泊施設が込み合う時期ですので、早めの手配をお勧めします。Hotels in Kobe during the forum are expected to be crowded. We encourage you to make hotel reservations by yourself as soon as possible. 

フォーラムに参加される方はこちらにアクセスのうえ、必要事項をご記入ください。送信ボダンを押せば、申込完了です。8月31日までにお申し込み下さい。
Please sign up here by August 31.

メールや郵送での参加申込も受け付けています。こちらをご参照ください。
Registration by email or mail is also accepted. For more information, please click here.

お問い合わせはAALA事務局までメールでお願いします。
For all registration/conference-related questions, please contact the AALA Office by E-mail: aala.jp.office@gmail.com

AALAフォーラム2023(第31回)

「アジア系(アメリカ)文学研究と翻訳」 プログラム

日時:2023年9月24日(日)9:50~
会場:神戸大学人文学研究科B棟1階132教室(視聴覚教室)[ランチョンは人文学研究科A棟1階学生ホール]
*ハイフレックス開催(Zoomでも参加可能です)

9:30 ~ 9:50 受付
9:50 ~ 10:00 開会の辞 山本秀行(AALA会長:神戸大学)

10:00 ~ 12:00 特別講演
「日本語/英語で書くときに私の書くこと」[“What I Write About When I Write in Japanese/English”]
講師:吉原真里 氏(ハワイ大学)[Prof. Mari Yoshihara, University of Hawaii]
司会:中地幸(都留文科大学)

12:00 ~ 13:00 ランチョン [人文学研究科A棟1階学生ホール]
13:00 ~ 13:30 総会

13:30 ~ 16:30 シンポジウム「アジア系(アメリカ)文学研究と翻訳」
司会:山本秀行
講師:麻生享志(早稲田大学)、トーマス・ブルック(追手門学院大学)、濱田麻矢(神戸大学:中国文学)
コメンテーター:小林富久子(早稲田大学(名))

16:30 ~ 16:40  閉会の辞 

* 会場での飲食は、蓋つきのペットボトル等のドリンク以外お断りします。

※本フォーラムは、JSPS科学研究費(基盤研究(B)「「アジア系トランスボーダー文学」研究の包括的枠組創成と国際的ネットワーク構築」2023-25年度)の助成を受けています。

[登壇者プロフィール・発表概要等]

[特別講演]
講演者紹介:吉原真里 氏(Prof. Mari Yoshihara)
1968年ニューヨーク生まれ。東京大学教養学部卒、米国ブラウン大学博士号取得。ハワイ大学アメリカ研究学部教授。専門はアメリカ文化史、アメリカ=アジア関係史、ジェンダー研究など。著書に『アメリカの大学院で成功する方法』、『ドット・コム・ラヴァーズ――ネットで出会うアメリカの女と男』(以上、中公新書)、『性愛英語の基礎知識』(新潮新書)、『ヴァン・クライバーン国際ピアノ・ コンクール――市民が育む芸術イヴェント』、『「アジア人」はいかにしてクラシック音楽家になったのか?――人種・ジェンダー・文化資本』、『親愛なるレニー――レナード・バーンスタインと戦後日本の物語』(第35回ミュージック・ペンクラブ賞、第80回日本エッセイスト・クラブ賞、第11回河合隼雄物語賞受賞)(以上アルテスパブリッシング)、共編著に『現代アメリカのキーワード』(中公新書)、共著に『私たちが声を上げるとき――アメリカを変えた10の問い』(共著、集英社新書)。英語の著書に、Embracing the East: White Women and American Orientalism (Oxford UP, 2002)、Musicians from a Different Shore: Asians and Asian Americans in Classical Music (Temple UP, 2007)、Dearest Lenny: Letters from Japan and the Making of the World Maestro (Oxford UP, 2019)など多数。水村美苗『日本語が亡びるとき』を英語に共訳。

[シンポジウム概要]
 従来、著名な翻訳家の実践的な翻訳術、あるいは比較文学的視点から著名な翻訳文学の研究に重きを置いた日本特有の「翻訳論」とは異なる、欧米に起源を持つ「トランスレーション・スタディーズ」(Translation Studies)が、近年、日本でも注目されるようになってきた。
 これまで、外国文学研究において、文学テクストの翻訳不可能性(untranslatability)ゆえに、翻訳ではなく、原典を読まなければならないという「原典至上主義」が自明のものとされてきた。一方、「翻訳大国」とも言える日本における外国文学研究において、翻訳された文学テクストは「原典」を読みことが困難な多くの読者を獲得し、その研究の裾野を広げてきた。このことは、アジア系アメリカ文学(研究)においても言える。たとえば、藤本和子訳のマキシン・ホン・キングストン『チャイナタウンの女武者』(晶文社、1978)、中山容訳のジョン・オカダ『ノー・ノー・ボーイ』(晶文社、1979)、大橋吉之輔訳のトシオ・モリ『カリフォルニア州ヨコハマ町』(毎日新聞社、1979)など、1970年代後半にアジア系アメリカ文学の古典の優れた翻訳が次々と出版されたことは、その後の日本におけるアジア系アメリカ研究の成立と発展に大いに貢献したことは言うまでもない。
 また、山本秀行が研究代表を務める科研プロジェクト(「「トランスボーダー日系文学」研究基盤構築と世界的展開――「世界文学」的普遍性の探究」2019-21年度基盤研究(B)、「「アジア系トランスボーダー文学」研究の包括的枠組創成と国際的ネットワーク構築」2023-25年度基盤研究(B))における研究パースペクティヴの一つ「トランスレーショナル(翻訳媒介)文学」では、村上春樹や多和田葉子などの翻訳と創作の関係あるいは日本語のテクストから外国語に翻訳されることによって生み出される言語的・文化的トランスボーダー性について研究を進めてきた。
 このような背景を持つ本シンポジウム「アジア系(アメリカ)文学と翻訳」では、ヴェトナム系アメリカ文学の研究のみならず、ラン・カオの翻訳を手掛けてこられた麻生享志氏、リービ英雄などのトランスナショナル文学を専門とし、トランスレーション・スタディーズにも精通されている気鋭の研究者トーマス・ブルック氏、現代中国女性文学の第一人者で張愛玲などの翻訳を手掛けてこられた濱田麻矢氏をシンポジストとしてご登壇いただく。さらに、日本におけるアジア系アメリカ文学研究、女性学を初期から牽引され、トリン・T・ミンハやモニカ・トゥルンなどヴェトナム系の翻訳を手掛けてこられたAALA前会長の小林富久子氏にもコメンテーターとしてご登壇いただく。本シンポジウムでは、文学研究としての翻訳、翻訳行為によって生み出される文学的創造性、あるいは言語だけでなく文化の翻訳による言語的・文化的トランスボーダー性など、翻訳の肯定的側面に焦点を当て、アジア系(アメリカ)文学の翻訳の関係についての発表・ディスカッションが活発に行われることを期待している。なお、各シンポジストの発表概要は以下の通りである。(山本秀行)

シンポジスト発表要旨
麻生享志(早稲田大学)
「アーカイヴと翻訳――ヴェトナム系難民文学の「アフターライフ」」
 トランスレーション・スタディーズが注目を浴びるようになって久しい。ヴェトナム系では、「雑多なものの共存」を意図したトリン・ミンハが、「幾つかの言語、文化、現実をつなぎあわせひとつの総体とする」ことを「文化翻訳」ないしは文化の「ハイブリッド化」と呼ぶ。
 一方、ヴェトナム系難民文学とは、多くの犠牲者の上に成り立つ、数少ない生存者が構築する文学である。それはベンヤミンがいう「アフターライフ」としての存在であり、それを多/他言語化して接ぎ足す翻訳作業は、その「アフターライフ」を「ポストメモリー」として広く共有するための手段である。また、脱越の歴史を人々の記憶に刻印するには、翻訳を含む難民文学の「アーカイヴ」化が求められる。
 本発表では、ヴェトナム系難民文学における翻訳という行為を、実践と理論の双方から検証し、難民文学のアーカイヴ構築がもつ可能性について論じる。

トーマス・ブルック(追手門学院大学)
「文脈依存の翻訳行為――リービ英雄の日本語作品における英日翻訳の引用と表象に関する考察」
 創作の言語が作者にとっての「第一言語」でない場合、創作行為に翻訳行為が介在しているはずだとよく言われる。その過程を構想することはしかし、必ずしも容易ではない。一方、リービ英雄の日本語による文学作品では、語り手・視点人物が英語と日本語をはじめとする複数の言語に囲まれながら翻訳行為に関与している様子がしばしば描写されている。本発表では、リービの作品における、こうした翻訳行為の前景化を作者自身の創作行為と関連づけて考察したい。具体的には、作者がかつて英訳した『万葉集』の英訳がそのまま引用された後、和訳された英語の証言が次々に引用される展開を持つ短編「宣教師学校五十年史」(2015)を取り上げ、こうした作品内のいわばパフォーマティヴな翻訳行為が、作者による創作行為という作品外の文脈と絡み合うことにより、他言語への翻訳困難性とも結びつく、高度に文脈に依存した文学的な価値が生み出される過程を明らかにする。

濱田麻矢 氏(神戸大学, 中国文学)
「カノンを撹乱するテクスト――イーユン・リーの描く中国」
 母親、母語、母国から遠く離れて英語創作を続けているイーユン・リーは、自作を中国語に翻訳することも拒否しているという点で英語創作華人作家の中でも特異な存在だが、彼女の創作の多くは中国を対象としている。まず医学を志し、留学先で創作を始め、中国の救いようのない現実を容赦なく描くことから、彼女の文学的態度はよく魯迅と比べられてきたが、リーは「自分は魯迅を好まない」と、中国文学のカノンからの決別を宣言した。本報告では、極めて「魯迅的」な彼女のテクスト、The Vagrant を中心にリーと中国及び魯迅との距離について考えたい。

【参加申込方法】
・対面・遠隔(Zoom)にかかわらず、ご参加を希望される方は、2023年9月16日(土)までに次のGoogleフォームでお申し込みください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSd33826ZlIqx7cKMFAY1leVXGu2gK3hS3sj4ujHsT889g8kNw/viewform?usp=sf_link
※こちらのフォームで、ランチョン(弁当1,000円)の注文も同時に受け付けています。
※ご宿泊先については、各自でお申し込みください。なお、この時期は観光等で各施設の混雑が予想されることから、早めのご予約をおすすめいたします。

【お問い合わせ】AALA Office aala.jp.office@gmail.com

AALAフォーラム2022(第30回)

第30回AALAフォーラム (AALA Forum 2022) プログラム

「アジア系アメリカ文学研究とトランスボーダー性/オリエンタリズム――村上春樹と小野姉妹を中心に」

<フォーラム趣旨説明>

 これまでアジア系アメリカ文学研究は様々な理論・方法論を取り入れることによって発展してきたが、そうした理論・方法論を従来の研究対象(狭義の「アジア系アメリカ文学」)から広げて適用することは可能であろう。今回のフォーラムでは、アジア系アメリカ文学研究の中で培われてきた「トランスボーダー性」や「オリエンタリズム」というパースペクティヴに拠って、村上春樹と小野姉妹という日本を代表して世界的に活躍する作家・アーティストについて考察したい。ひいては、この試みによってアジア系アメリカ文学研究の枠組を拡大し、研究内容を深化させることを目指している。(山本秀行)

日時:2022年9月25日(日)9:50~16:10
会場:早稲田大学早稲田キャンパス11号館4階第4会議室
*当日キャンパス内には案内板等のご用意はございません。正門・南門等より11番の校舎までお進みください。
キャンパスマップ

9:30 ~ 9:50  受付
9:50 ~ 10:00 開会の辞 山本秀行(AALA会長:神戸大学)

10:00 ~ 12:00
講演「副業としての翻訳家: 村上春樹から始まった20年を振り返って」
  講師:辛島デイヴィッド(早稲田大学)
  司会:麻生享志(早稲田大学)

ミニ・シンポジウム「トランスボーダー文学としての村上春樹」
  発表者:仁平千香子(山口大学)
  山本秀行(神戸大学)

12:00 ~ 13:00  昼休み(*下記注意事項をご確認ください。)

13:00 ~ 13:30  総会

13:30 ~ 16:00
シンポジウム「アジア系アメリカ文学とオリエンタリズム――小野姉妹の功績を中心に」
  司会・講師:牧野理英(日本大学)
  講師:田ノ口誠悟(日本学術振興会特別研究員PD)、矢口裕子(新潟国際情報大学)、松川祐子(成城大学)

16:00 ~ 16:10  閉会の辞

* 感染症対策から、構内でのマスクの着用をお願いいたします。また、会場での飲食は、水分の補給のみでお願いいたします。当日キャンパスではご昼食等の提供はございません。各自ご用意いただき、キャンパス内の認められた場所での黙食をお願いいたします。

[登壇者プロフィール・発表概要等]

講演副業としての翻訳家: 村上春樹から始まった20年を振り返って

[講演者紹介] 辛島 デイヴィッド(David Karashima)先生

1979年東京都生まれ。作家・翻訳家。現在、早稲田大学国際教養学部准教授。タフツ大学(米)で学士号(国際関係)、ミドルセックス大学(英)で修士号(文芸創作)、ロビラ・イ・ビルヒリ大学(西)で博士号(翻訳・異文化学)取得。日本文学の英訳や国際的な出版・文芸交流プロジェクトに幅広く携わる。2016年4月から2017年3月まで、NHKラジオ「英語で読む村上春樹」講師もつとめた。主な著作として、『Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち』(みすず書房、2018)、『文芸ピープル―「好き」を仕事にする人々』(講談社、2021)、「インターセクションズ」(『すばる』2022年5月号掲載)などがある。

ミニ・シンポジウム「トランスボーダー文学としての村上春樹」

[ミニ・シンポジウム概要]

 本ミニ・シンポジウムでは、村上春樹研究の著書や論文を出版されている辛島デイヴィッド先生を囲んで、2名の発表者(山本および仁平先生)が「トランスボーダー文学としての村上春樹」という観点から、それぞれの観点・テーマから発表を行う。その後辛島先生からコメントや質問をいただいた後、フロアの会員の方々も交え、ラウンドテーブル・ディスカッションを行う。村上春樹の母校であり、また、2021年10月に国際文学館(村上春樹ライブラリー)が開館したことが話題になった早稲田大学において開催される本ミニ・シンポジウムで、「トランスボーダー文学としての村上春樹」という新たな姿を浮かびあがらせることができたら幸いである。(山本秀行)

[ミニ・シンポジウム 発表要旨]

1. 「国境を越えた共感:村上春樹の国際的人気の理由を考える」 仁平千香子(山口大学)
 村上春樹は国内外で多くの読者を獲得してきたが、国内の文学研究者や文芸評論家からの意見はデビュー当時から変わらず厳しい。ファンタジー要素が強いことや日本の社会問題や歴史に直接切り込まないスタイルは、逃避的と批判されたり、作者の日本人としての意識の希薄さと判断されたりしてきた。これらの批判的意見の背後には、「理想的な(純)文学のあり方」というある種の定型が固定化され共有されていると考えられるが、一方で読者の根強い人気は否定できるものではなく、また見過ごすべきでもない。また日本文学の海外受容に関して言えば、谷崎や三島、川端の読者はいわゆる「伝統的日本」を求めてこれらの作品を読む傾向があったのに対し、村上の読者は日本について知ろうと村上作品を読むことはない。そこには文化的差異を越えた共感があり、それが読者とある種の化学反応を起こしていると考える方が自然である。本発表では、文化的特殊性や時代的特殊性を越えて読者に訴える村上作品の特徴について考えたい。

2.「村上春樹「ドライブ・マイ・カー」とその映画版におけるインターテクスト的トランスボーダー性」 山本秀行(神戸大学)
 濱口竜介監督の映画『ドライブ・マイ・カー』(2021)は、2021年度アカデミー賞国際長編映画賞を受賞するなど、世界的高評価を受けた。原作である村上春樹の同名の短編(2013年初出)のタイトルはThe Beatlesの曲‟Drive My Car”(1965)に由来し、主人公の名前の家福(Kafuku)は2002年の小説『海辺のカフカ』の主人公の名前、あるいはその由来となっているFranz Kafukaを想起させるなど、他作品とのインターテクスト性によって、本作品のトランスボーダー性が補強されている。妻を亡くしたベテラン俳優の主人公家福が、愛車Saabの運転手として雇った無口で影のある若い女性みさきとの交流を通して人生の意味を模索するというメイン・プロットに、アントン・チェーホフの戯曲『ワーニャ伯父さん』の韓国人製作者による多言語上演に主人公が監督(兼俳優)として関わり成功させるというインターテクスト的サブ・プロットが加わった映画版では、世界的アピール力を備えたトランスボーダー性がより顕著である。本発表では、こうした原作短編と映画版におけるインターテクスト的トランスボーダー性について詳細に検討したい。

シンポジウム「アジア系アメリカ文学とオリエンタリズム――小野姉妹の功績を中心に」

[シンポジウム概要]

 本シンポジウムの主旨は、第二次世界大戦前後に日本に生まれ、その後国家的概念から大きく逸脱して世界をかけめぐることになる小野姉妹―オノ・ヨーコ、そして小野節子―の60年代、70年代の功績に着目し、彼らのオリエンタリズムに対する視点がいかにアジア系アメリカという領域を再定義していたのかという問題を議論するというものである。
 オノ・ヨーコとは、反戦運動や、Nutopia設立といったトランスボーダーな平和主義を前面に掲げ、常に英米社会を挑発し続けた日本出身の前衛芸術家である。1969年にジョン・レノンとセンセーショナルな形で結婚式を挙げたことから、ともすれば「レノンの妻」という立ち位置ばかりが注目されがちであるが、実際には日本にいた頃から、斬新な芸術的手法と大胆なる行動力をもって活動し続けた人物である。ちなみに日系アメリカ作家カレン・テイ・ヤマシタは最新作『三世と多感(Sansei and Sensibility)』(2020)所収の短編「ボルヘスとわたし(“Borges and I”)」において、オノ・ヨーコとレノンの相互的かつ対等なる関係性を描いている。
 一方小野節子という名前からオノ・ヨーコの妹という血縁関係を見出すことのできる人間はいないだろう。この人物の背景を見てみると、そこには太平洋戦争とともに生まれ、その後芸術と経済といった相異なる分野を極め、全世界を駆け巡った類まれなる国際人の姿をみることができるからだ。その人生には芸術家と起業家の接点ともいえるダイナミックな創造力が顕在化されている。70年代にスイスのジュネーブ大学大学院で執筆した博士論文には、オリエンタリズムという概念に正面から切り込み、そこから新たな視点を見出していた小野の慧眼が伺える。
 本シンポジウムでは、田ノ口氏、矢口氏、そして松川氏の論考をベースに、オノ・ヨーコと小野節子の類稀なる才能が、オリエンタリズムというテーマを軸にどのように展開していったのかを分析していきたい。(牧野理英)

[シンポジウム発表要旨]

1.「小野節子とラフカディオ・ハーン」 牧野理英(日本大学)
 小野節子の人生とその博士論文が示すのは、オリエンタリズムという概念に対し真正面から取り組んだ日本人の研究者としての姿勢である。1941年、銀行家の小野英輔・磯子夫妻の次女として東京に生まれ、両親とともに5年間アメリカで生活したのち、60年代後半にはスイス・ジュネーブ大学付属高等国際問題研究大学院比較文学科に入学した小野は、72年にはこの博論を書き終える。この40年代生まれで70年代に活動を始める日本人の姿に筆者が注目している理由とは、激動の日本と共に生き、その国家性を国内のみではなくトランスナショナルな視点からとらえ、世界に発信するといった離れ業を70年代にスイスでやってのけたという点にあるだろう。国民意識に関して、そこで生まれ育った民族が特権をもって語るという形式に終始していたアメリカのエスニック文学が公民権運動から70年代にかけて注目されていた時代に、それをはるかに超越した形で、日本が欧米でどのように見られていたのかを逆の視点から追求していたのが小野節子であった。
 ピエール・ロティ(Pierre Loti)とラフカディオ・ハーン(Lafcadio Hearn)の展開する日本論とは、それぞれ現代では日本研究およびオリエンタリズム研究において重要な文献であることはいうまでもないが、70年代初頭にこれを比較し、両作家の視点の限界を指摘することで、徳川政権の徳川慶喜の体現する姿に新しい日本人像を見出したのはおそらくこの小野がはじめであったと思われる。ここではこの博士論文を概観すると共に、筆者がこの論文を翻訳する上で感じた感想も交えながら、このエドワード・サイード(Edward Said)に先んじる小野のオリエンタリズム再考を、ラフカディオ・ハーンを起点に試みたいと思う。

2.「小野節子とピエール・ロティ」 田ノ口誠悟(日本学術振興会特別研究員PD)
 ピエール・ロティ(Pierre Loti, 1850-1923)は近代フランスの小説家、海軍士官であり、オペラ『蝶々夫人』の原作ともなった『お菊さん』(1887)など、自身の航海における異国の人々との交流をもとにした異国趣味的・エキゾティックな作品で広く知られている。しかしフランス文学においては、彼の作品はどちらかというと見聞録、旅行記に類するものとして扱われがちであり、その文学作品としての特色を真正面から考察する研究は多くないと言える。この点で、小野節子が1972年にジュネーブ大学大学院比較文学科に提出した博士論文『日本に対する西洋のイメージ:ロティとハーンを通して西洋人は何を見たのか』の意義は極めて大きかった。小野はそこで、『お菊さん』を始めとするロティの日本を主題とした作品を分析し、それらが「イメージ」という能動的な想像/創造の営為の所産であったことを示しているのである。本発表では、小野の分析を整理しつつ、その上でロティ作『お菊さん』を読解し、その独自のイメージの文学としての特性を明らかにする。その中で、ロティ作品の文学史的意義はもちろん、近年の文学研究においては単純な文化的偏見の具現として敬遠されがちな異国趣味文学やオリエンタリズム的作品を再評価する道筋も見えてくるだろう。

3.「オノ・ヨーコのオリエンタリスト/フェミニスト・パフォーマンス」 矢口裕子(新潟国際大学)
 パフォーマンス・アーティストとしてのオノ・ヨーコの出発点を、仮に1955年の Lighting Pieceに置くなら、そのちょうど60年後の2015年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で行われた個展、Yoko Ono: One Woman Show, 1960-71が初期作品を集中的に取りあげたのは、故なきことではない。第一に、それがまさに1971年、MoMAを想像上の会場として開催された架空の展覧会、One Woman Showへの、MoMAからの44年後の応答であったこと、第二に、何よりもまずジョン・レノン夫人としてオノを認識する世界に対して、レノン以前の前衛アーティスト、オノを提示すること、第三に、21世紀時点から見ても、初期作品にこそオノの可能性の中心があると考えられるためではないか。
 本発表では、玉虫厨子の捨身飼虎図にインスピレーションを受けたとされる、オノの代表的パフォーマンス作品Cut Piece (1964)を、オリエンタリズムとフェミニズムの交差路に立ちあがるものと捉え、フランス人アーティスト、ニキ・ド・サンファルのShooting(1961)と比較するとともに、3/11以降バトラーが展開する新しい肉体の存在論、抵抗としての被傷性の議論に接続する。さらに、2021年、ディズニー+で配信が開始された、解散間際のビートルズのドキュメンタリー映像Get Backに映しだされるオノの姿を、無作為の作為、沈黙のノイズ、可視と不可視のあわいを揺れ動く抵抗のパフォーマンスと捉え、それがある幼い娘を「叫ぶ少女」に変容させるまでを追う。

4.「パリンプセストとしてのThe Yoko Ono Project」 松川祐子(成城大学)
 アジア系北アメリカの文学と文化におけるオノ・ヨーコの影響力は計り知れないが、オノ・ヨーコが女性として、そして芸術家として、登場人物たちに大きな刺激を与えるアジア系北アメリカ文学作品をひとつ挙げるなら、韓国系劇作家ジーン・ユン(Jean Yoon, 1962- )のThe Yoko Ono Project(2000)を選びたい。カナダを拠点に女優としても活躍するユンは、この作品にオノ・ヨーコ自身の作品を多数組み込み、マルチメディア戯曲として完成せた。オノ・ヨーコの展覧会で出会う主人公のアジア系女性たち3人は、いくつものオノ作品を体験しながらアジア系北アメリカ人女性としてのアイデンティティとオノ・ヨーコとの複雑な関係について語り始める。
 本発表では、The Yoko Ono Projectでのオノ作品、オノ作品を体験する主人公たちとキャスト、主人公たちの追体験をしながら芝居に参加する観客、そしてThe Yoko Ono Project全体を鑑賞する観客や読者からなるパリンプセスト的重層性に着目する。可視化されたこれらの層でユンがオノの作品に重ねる現代アジア系北アメリカのコンテクストを通して、オノの先駆的ヴィジョンとユンの描くアジア系女性像と現代社会批判について探る。

参加申込方法および問合せ先 ※「アットマーク」はすべて半角の@にご変換ください。

  • 参加される方は、2022年9月16日(金)までに電子メールで必要事項(ご氏名、ご所属、ご連絡先等)を明記の上、事務局・深井(fukaiアットマークsuma.kobe-wu.ac.jp)までお申し込みください。
    Google Formからもお申し込み可能です。https://forms.gle/y8nmox7HoscD6xAd8
  • 非学会員の方も参加できます。
  • ご宿泊先については、各自でお申し込みください。なお、この時期は観光等で各施設の混雑が予想されることから、早めのご予約をおすすめいたします。
  • お問い合わせは、開催校担当者麻生まで電子メール(asoesアットマークwaseda.jp)にて、その他については学会事務局(hdyamamoアットマークlit.kobe-u.ac.jp)までご連絡ください。

AALA FORUM 2021(第29回)

2021年9月19日(日)

ウェブ開催(Zoom使用) 12:00頃からZoomミーティングを開始します。

12:15~13:00 総会

13:00~14:30 研究発表
仁平千香子(山口大学)
「二世の贖罪意識についての考察――John Okadaと森崎和江の比較から」
岸野英美(近畿大学)
「水資源の危機――Rita WongのUndercurrentを読む」

14:30~18:00 シンポジウム
「アジア系アメリカ文学の新世紀――21世紀初頭のピューリッツア賞・全米図書賞受賞作/ファイナリストを中心に」司会:古木圭子(奈良大学)
発表:
麻生享志(早稲田大学)
「ピューリッツァ賞への道――Viet Thanh Nguyen, The Sympathizerにおける「ヴェトナム」表象とアメリカ文学史」
牧野理英(日本大学)
「「島」と日系アメリカ――I Hotel(2010)を読む」
藤井爽(近畿大学)
「成功物語としてのMin Jin Lee, Pachinko
加藤有佳織(慶応義塾大学)
「容赦なく語ること――Hanya Yanagiharaの小説における暴力の表象」
志賀俊介(成蹊大学)
「故郷の影とともに――Jhumpa Lahiri, The Lowlandにみるインド系移民のアメリカ像」

会員以外の方で参加をご希望の場合は、事務局までご連絡ください。