AALA Forum 2016(第24回)

「ポストモダニズムとアジア系アメリカ文学」
Postmodernism and Asian American Literature”

日時:2016年9月24日(土)、25日(日)
会場:神戸大学六甲台第2キャンパス(文理農キャンパス)
 [シンポジウム、イヴニング・セッション、特別講演] 
 人文学研究科B棟1階B132教室(視聴覚教室)
 [懇親会・ランチョン] 
 生協食堂LANS Box 2階

総合司会:山口知子(関西学院大学[非])

第1日 9月24日(土)
13:00 ~ 13:30  受付
13:30 ~ 13:40   開会の挨拶 小林富久子(AALA代表:城西国際大学)
13:45 ~ 16:45   シンポジウム「ポストモダニズムとアジア系アメリカ文学」
司会:山本秀行(神戸大学)
長畑明利(名古屋大学)
「アジア系詩人による言語実験の評価について」
牧野理英(日本大学)
「Yamashitaと1970年代―diasporaとinternmentを中心に」  
麻生享志(早稲田大学)
「ヴェトナム系アメリカ文学とポストモダンの交差点」
17:30 ~ 19:00  夕食・懇親会  司会:松本ユキ(近畿大学)
19:15 ~ 20:30  イヴニング・セッション(Evening Session):
“Transnational Collaboration in Asian American Multimedia Performance”
講師:Dan Kwong (Associate Director, Great Leap; Multimedia/Performance Artist)
司会:村山瑞穂(愛知県立大学)
ディスカッサント:山本秀行

第2日 9月25日(日)
9:30 ~ 11:00  特別講演
「ドン・デリーロにおけるの〈死〉のデザイン―オリエンタルな意匠をめぐって」
講師:渡邉克昭(大阪大学教授)
司会:古木圭子(京都学園大学)
11:00 ~ 11:30  総会  司会:深井美智子(神戸女子大学[非])
11:30 ~ 13:00  昼食会(ランチョン)  司会:深井美智子
13:00 ~ 閉会の辞  桧原美恵(AALA前代表)

(シンポジウム概要)
司会:山本秀行(神戸大学)
アジア系アメリカ文学研究において、その「金字塔」とも言える著書Elaine Kim, Asian American Literature: An Introduction to the Writings and Their Social Context (l982)以降、審美的批評よりはむしろ社会文化的・政治的批評が支配的であった。しかしながら、アジア系アメリカ文学研究が学界の中で確たる地位を占めるようになってきた近年、アジア系アメリカ文学を審美的批評に「回帰」させる傾向も徐々に見られるようになってきた。たとえば、Dorothy Wang, Thinking Its Presence: Form, Race, and Subjectivity in Contemporary Asian American Poetry(2014)やAndy Wu Clark, The Asian American Avant-Garde: Universalist Aspirations in Modernist Literature and Art (2015) などは、アジア系アメリカ文学テクストをこれまでのアジア系アメリカ文学研究ではあまり顧みられることがなかったモダニズム/ポストモダニズムという審美的概念を参照枠にして考察している点で注目に値する。こうした最近の研究動向も踏まえ、本シンポジウムは、第21回AALA フォーラム(2013年9 月、神戸大学)のシンポジウム「アジア系アメリカ文学再読―アメリカ文学研究のパースペクティヴから」をさらに推し進めて、アメリカ文学という大きな枠組の中においてアジア系アメリカ文学の相対化を図ろうとする試みである。本シンポジアムにおいては、こうしたポストモダニズムという“universal”な「審美的概念」をアジア系アメリカ文学テクストの批評における参照枠として使うことの「危険性」についても十分踏まえた上で、あえてそうすることにより到達可能な新たな“counter-universal”な読みの「地平」を探求したい。このような方向性において、3人のシンポジストがそれぞれの専門・批評的立場から、多種多様なアジア系アメリカ文学テクストに挑み、アジア系アメリカ文学批評の再構築に向けての指針を示していただけるものと期待している。
(発表要旨)
・長畑明利(名古屋大学)「アジア系詩人による言語実験の評価について」
従来、アジア系アメリカ人による詩は、アジア系の経験や感情を記録・表明するテクストとして了解される傾向が強かったが、近年は言語実験を試みる詩人も注目されるようになった。この発表では、そうした革新的なアジア系詩人を対象とするアジア系研究者による研究を取り上げ、そこに見出される評価のあり方について、特に、言語実験と民族性の表現との関係について検討を試みる。
・牧野理英(日本大学)「Yamashitaと1970年代―diasporaとinternmentを中心に」
本発表では1970年代に時代設定あるいは執筆されたカレン・テイ・ヤマシタの作品 (“The Bath”; Brazil-MaruI Hotel )を論ずる。ヤマシタのポストモダニズムの根幹はその文化人類学的な学術的背景にある。日系収容所の歴史とdiasporaという概念を中心に、彼女に影響を与えたアメリカ作家との関連性なども含めて70年代のヤマシタの足跡をたどる。
・麻生享志(早稲田大学)「ヴェトナム系アメリカ文学とポストモダンの交差点」
本発表では、Lan Cao、Viet Thanh Nguyen、Bich Minh Nguyenらの作品を取り上げ、ヴェトナム系アメリカ文学をポストモダニスト的視点から分析する。とくに1.5世代作家が取り上げる文化の二重性と複合性の問題に配慮しつつ、トランスパシフィックという地政学的空間のなかでアップデートされる21世紀的なポストモダニティー(ポスト・ポストモダニティー?)のあり方を考察したい。

(イヴニング・セッション講師紹介): Mr. Dan Kwong
Mr. Dan Kwong is an American performance artist, writer, teacher and visual artist. He has been presenting his solo performances since 1989, often drawing upon his own life experiences to explore personal, historical and social issues. He is of mixed Asian American heritage (Chinese American/Japanese American). His works intertwine storytelling, multimedia, dynamic physical movement, poetry, martial arts and music. Mr. Kwong is a graduate of the School of the Art Institute of Chicago. He has been an Artist with the multicultural performing arts organization Great Leap since 1990 and assumed the position of Associate Artistic Director in 2011 and a Resident Artist at the 18th Street Arts Center, in Santa Monica, California since 1992. Mr. Kwong’s first book, From Inner Worlds to Outer Space: The Multimedia Performances of Dan Kwong, a collection of performance texts from 1989 to 2000, was published in 2004 (University of Michigan Press).

(要旨)特別講演「ドン・デリーロにおける〈死〉のデザイン―オリエンタルな意匠をめぐって」講師:渡邉克昭(大阪大学教授)
ドン・デリーロ文学におけるアジア表象については、これまで一つの視座からまとまった議論が展開されることがほとんどなかったと言っても過言ではない。だが、デビュー作『アメリカーナ』(1971)以来、デリーロが描き続けてきた死のデザインには、アメリカ的想像力が畏怖する死の恐怖を相対化し、そこに重ね書きするかのようにオリエンタルな眼差しが要所に埋め込まれている。一例を挙げると、彼を一躍有名にした『ホワイト・ノイズ』(1985)の執筆にあたり、デリーロが、チベットの『死者の書』から大いなるインスピレーションを得ていることは比較的良く知られている。邦画、俳句、能など、日本文化への言及を通じて、作家は何を模索しようとしたのか。
本講演では、デリーロの主要作品におけるアジア表象を多角的に考察することにより、拙著『楽園に死す―アメリカ的想像力と〈死〉のアポリア』の延長線上に彼のオリエンタルな意匠を位置づけ、本年5月に上梓された最新作『ゼロK』(2016)へと至る彼の文学の軌跡を振り返ってみたい。

(特別講演講師プロフィール)  渡邉克昭 先生
大阪大学言語文化研究科教授(言語社会専攻)。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。専門:ポストモダン・アメリカ文学・文化。
主要著書:『楽園に死す―アメリカ的想像力と〈死〉のアポリア』(大阪大学出版会、2016年)、『災害の物語学』(共著、世界思想社、2014年)、『アメリカン・ロード』(共著、英宝社、2013年)、『異相の時空間』(共著、英宝社、2011年)、『二○世紀アメリカ文学のポリティクス』、(共著、世界思想社、2010年)、『メディアと文学が表象するアメリカ』(共著、英宝社、2009年)、『アメリカ文学研究のニュー・フロンティア』(共著、南雲堂、2009年)、『神話のスパイラル』(共著、英宝社、2007年)、『二〇世紀アメリカ文学を学ぶ人のために』(共編著、世界思想社、2006年)、『共和国の振り子』(共編著、英宝社、2003年)など。