AALA Forum 2013(第21回)

<日本語>

「アジア系アメリカ文学再読―アメリカ文学研究のパースペクティヴから

日時:2013年9月21日(土)、22日(日)
会場:神戸大学六甲台第2キャンパス(文理農キャンパス)
 [シンポジウム、イヴニング・セッション、特別講演] 人文学研究科B棟1階B132教室
 [懇親会・ランチョン] 生協食堂LANS Box 2階

総合司会:山口知子(関西学院大学[非])

第1日 9月21日(土)
1:00 ~ 1:30 受付                  
1:30 ~ 1:40 開会の挨拶 小林富久子(AALA代表:早稲田大学)
1:45 ~ 4:45 シンポジウム
「アジア系アメリカ文学再読―アメリカ文学研究のパースペクティヴから」
司会:山本秀行(神戸大学)
・ 山下昇(相愛大学)
「戦争/ナショナリズムとジェンダー/セクシュアリティ―Chang-rae Lee, William Faulkner, Nora Okja Keller, Toni Morrison」
・塚田幸光(関西学院大学)               
「二つの文革とアメリカの影―イーユン・リー、ハ・ジン、ディアスポラ」
・杉山直子(日本女子大学)
「アジア系アメリカ文学」とは何か?」
ディスカッサント:村山瑞穂(愛知県立大学)
4:45 ~ 5:15 Q&A
5:30 ~ 7:00 夕食・懇親会 司会:古木圭子(京都学園大学) 
7:15 ~ 8:30 イヴニング・セッション:
“Thinking about Japanese Literature through Brasil Nikkei Bungaku”
講師:Ted Mack (University of Washington)
司会:沖野真理香(高知高専)

第2日 9月22日(日)
9:30 ~ 11:00 特別講演
「米比戦争と反帝国主義連盟の作家たち―トウェイン、ハウエルズ、マスターズ」
講師:大井浩二(関西学院大学名誉教授)
司会:小林富久子
11:00 ~ 11:30 総会  司会:深井美智子(神戸女子大学[非])
11:30 ~ 13:00 昼食会(ランチョン)  司会:深井美智子
13:00 ~ 13:10 閉会の辞  植木照代(神戸女子大学名誉教授)

(趣旨説明)
シンポジウム「アジア系アメリカ文学再読―アメリカ文学研究のパースペクティヴから」
司会:山本秀行(神戸大学)
近年、学術研究の対象としての地位を確立したアジア系アメリカ文学だが、それゆえに、<アジア系アメリカ文学研究>という独自の枠組の中で研究されることが多くなってきた。また、AALAにおいても、創設当初は主としてアメリカ文学のcanonを研究していた者たちが、様々な経緯や理由からアジア系アメリカ文学の研究に乗り出したケースが多かったが、近年、国内外の大学で従来のアメリカ文学研究のみならず、アメリカ研究、エスニック・スタディーズ、カルチュラル・スタディーズ、移民研究など様々な学域・学問分野でアジア系アメリカ文学を専門に研究し始めた若手研究者も増えてきた。これは、<アジア系アメリカ文学>という研究ジャンルの成熟と捉えることができる一方、<アジア系アメリカ文学研究>と<アメリカ文学研究>の間に生じつつある乖離を表しているとも言える。本シンポジウムは、AALA創設25周年を来年に控え、これまでのアジア系アメリカ文学研究の推移を振り返りつつ、アジア系アメリカ文学をアメリカ文学研究のパースペクティヴから再読しようという試みである。司会者による趣旨説明と問題提起の後、3人のパネリストが、以下で記すようなマクロ/ミクロの視点から、アジア系アメリカ文学の再読に取り組む。もちろん、アジア系アメリカ文学とcanonicalなアメリカ文学の影響関係を探求するのみならず、そうすることの有効性/問題点などについても考えてみたい。また、ディスカッサントおよびフロアを交えたディスカッションを通して、今後、我々がアジア系アメリカ文学を研究・教育にどのように取り組んでいくべきかという方向性についても考察を深めていけたら幸いである。
(発表要旨)
・ 山下昇(相愛大学)
「戦争/ナショナリズムとジェンダー/セクシュアリティ―Chang-rae Lee, William Faulkner, Nora Okja Keller, Toni Morrison」 
コリアン・アメリカン男性作家Chang-Rae LeeのA Gesture Life(1999)、The Surrendered(2010)が、同じコリアン・アメリカンの女性作家Nora Okja KellerのComfort Woman(1997)、Fox Girl(2002)と同様の主題を扱っていることは一読すれば明らかである。戦争、ナショナリズム、「従軍慰安婦」(軍隊性奴隷)、売春などのテーマを取り上げながらも、両作家の手法と態度は異なっており、別の効果を産み出している。これは20世紀前半の白人男性作家William Faulknerと、20世紀後半および現在も活躍しているアフリカ系女性作家Toni Morrisonが、同じ奴隷制の問題を取り上げていながらも、異なったアプローチによって別の効果を産み出していることに通底している。時代と民族性を超えて共有されるジェンダー的特性、ジェンダー的特性を超えて共有される民族的(国家的)主題について、これら4人の作家の作品を通して検討してみる。
・塚田幸光(関西学院大学)
「二つの文革とアメリカの影―イーユン・リー、ハ・ジン、ディアスポラ」
チャイニーズ・ディアスポラは、「文革」を幻視する。天安門事件という国家的トラウマの果て、アメリカへと政治的亡命を果たした二人の作家ハ・ジンとイーユン・リーは、如何にアメリカの「影」を引き受け、中国という記憶/想像力に対峙するのか。「文革」をキーワードとすれば、ハ・ジン『狂気』とイーユン・リー『さすらう者たち』は共鳴し、それらは共同体の記憶を映し出すナラティヴとなる。中国から遠く離れた場所で、記憶/過去を追体験すること。それは、クエンティンが南部を想起する事に似て、愛憎とトラウマのルーツ探しとなる。例えば、『狂気』の老教授と弟子の大学院生の語りとは、フォークナー『アブサロム、アブサロム!』とアナロジカルに結びつくだろう。では、もう一つの「文革」はどうだろうか。『さすらう者たち』の身体凌辱、そして短編「不滅」の性器切断は、ヘミングウェイ文学のアリュージョンであり、逆接的なマチズモを暴く。二人のディアスポラ作家は、「文革」を描くことで、二人のアメリカ作家の文学を継承するのだ。本発表では、ハ・ジンとイーユン・リーのアメリカの「影」を検証し、そこにフォークナーとヘミングウェイの残響を見る。
・ 杉山直子(日本女子大学)「「アジア系アメリカ文学」とは何か?」
「アフリカ系アメリカ文学」というカテゴリーは過去のような正当性を失ったのではないか、――こう問いかける批評書『アフリカ系アメリカ文学とは何だったのか?』(著者ケネス・W・ワレン)が2010年出版され、大きな反響を呼んだ。アフリカ系アメリカ文学と歴史的、社会的背景は異なるが、「アジア系アメリカ文学」というカテゴリーも、その定義や正当性については作家・批評家による自己検証や変革が繰り返されてきている。「惑星思考」(ガヤトリ・スピヴァック)「世界文学」(ワイ・チー・リーモック)といった、エスニシティの枠組を積極的に解体するかのような概念が提唱される中、「アジア系アメリカ文学」というカテゴリーはアメリカ文学研究の中でどのように正当性を持ち、また有効であり得るのか。主にマキシーン・ホン・キングストンの諸作品を例にとり考察する。
(イヴニング・セッション 講師紹介):
Dr. Ted Mack (Associate Professor of Japanese, University of Washington) 
PhD (in Japanese) at Harvard University.
Research Interests: 
Modern Japanese-language prose and criticism; art in capitalist marketplaces; the flow of literary works throughout the larger Japanese linguistic community; the function of power in the literary field; and theories of diaspora and heterogeneity, particularly as they challenge culturalist concepts of national identity.
Publications: 
Editor, Nihongo tokuhon (reproduction of the textbook series produced in California from 1924-30), 16 vols., forthcoming from Bunsei Shoin, Tokyo.
Editor, Nihongo tokuhon (reproduction of the textbook series produced in Seattle from 1920-38), 28 vols. (Tokyo: Bunsei Shoin, 2012).
*Manufacturing Modern Japanese Literature: Publishing, Prizes, and the Ascription of Literary Value (Durham: Duke University Press, 2010). 320 pp. 
Co-editor (with Paul S. Atkins and Davinder L. Bhowmik), Landscapes Imagined and Remembered, Proceedings of the Association for Japanese Literary Studies, vol. 6, 2005. 215 pp.

(要旨)特別講演「米比戦争と反帝国主義連盟の作家たち―トウェイン、ハウエルズ、マスターズ」
講師:大井浩二(関西学院大学名誉教授)
1898年4月に始まった米西戦争(Spanish-American War)に勝利して、フィリピン諸島をスペインから2,000万ドルで譲り受けたアメリカ合衆国は、その年の6 月にスペインからの独立を宣言していたフィリピン共和国を認めようとせず、1899年2月に米比戦争(Philippine-American War)が勃発した。1902年7月4日にセオドア・ローズヴェルト大統領が戦争の終結を宣言してからも、圧倒的に優勢なアメリカ軍に対するゲリラ戦は1913年まで継続し、フィリピン軍の戦死者は16,000人、一般人の犠牲者は250,000人から1,000,000人に及んだと言われる。他方、1898年11月にはジョン・デューイ、ウィリアム・ジェイムズ、アンドルー・カーネギー、ジェイン・アダムズら数多くの文化人や著名人がフィリピン併合に反対する反帝国主義連盟(Anti-Imperialist League)をボストンで立ち上げていたが、その有力なメンバーとして名前を連ねていた『ハックルベリー・フィンの冒険』で知られる国民的作家マーク・トウェイン(1835-1910)、彼の親友でアメリカン・リアリズムを代表する小説家ウィリアム・ディーン・ハウエルズ(1837-1920)、『スプーンリヴァー詞花集』の詩人として記憶されているエドガー・リー・マスターズ(?1868-1950)は、米比戦争に対してどのような反応を示していただろうか。この3人の主要な文学者が書き残した作品のいくつかによって具体的に検討してみたい。

<English>

“Re-reading ‘Asian American Literature’ from the Perspective of
American Literature Studies”

Date: September 21-22, 2013
Venue: B132 at Building B of Graduate School of Humanities, Kobe University [Address : 1-1 Rokkodai-cho, Nada-ku, Kobe 657-8501, Japan]

Conference Coordinator: Tomoko Yamaguchi (Kwansei Gakuin University)

Forum Schedule:

Day One – September 21 (Sat)
1:00 – 1:30 Registration
1:30 – 1:40 Opening Address: Fukuko Kobayashi (President of AALA, Waseda University)
1:40 – 4:45 Symposium:
“Re-reading ‘Asian American Literature’ from the Perspective of American Literature Studies”
Chair: Hideyuki Yamamoto (Kobe University)
Panelists:
・Noboru Yamashita (Soai University)
“Reading Chan-Rae Lee’s War Stories in the American Literary Context”
・Yukimitsu Tsukada (Kwansei Gakuin University)
“The Cultural Revolution(s) and American “Shadow” : Yiyun Li, Ha Jin, and Diaspora”
・ Naoko Sugiyama (Nihon Women’s University)
“What Is ‘Asian-American Literature?’”
Discussant: Mizuho Murayama (Aichi Prefectural University)
4:45 – 5:15 Q&A Session
5:30 – 7:00 Reception Party (at Kobe University Co-op LANS BOX Cafeteria)  MC: Keiko Furuki (Kyoto Gakuen University)
7:15 – 8:30 Evening Session:
“Thinking about Japanese Literature through Brasil Nikkei Bungaku”
Speaker: Ted Mack (University of Washington, USA)
Chair: Marika Okino (Kochi National College of Technology)

Day Two – September 22 (Sun)
9:30 – 10:30 Special Lecture:
“Anti-Imperialist Writers and the Philippine-American War: The Case of Twain, Howells and Masters”
Speaker: Koji Ohi (Professor Emeritus, Kwansei Gakuin University)
Chair: Fukuko Kobayashi
10:30 – 11:00 Q&A Session
11:00 – 11:30 General Meeting  Chair: Michiko Fukai (Kobe Women’s University)
11:30 – 13:00 Luncheon (at LANS BOX Cafeteria)  MC: Michiko Fukai
13:00 – 13:10 Closing Address: Teruyo Ueki (Professor Emeritus, Kobe Women’s University)