1989年5月、4人の発起人によって始められた「アジア系アメリカ文学研究会」は、現在100名を超える会員を擁するようになった。年間5回の研究会と1泊2日の夏期フォーラムを神戸、京都、東京と、時に応じて場所を変えながら会を重ねてきた。毎回時間を大幅に越す活発な議論と“at home”な雰囲気の中にもピリッとした緊張感が漂うのは、報告者のよく準備された発表とテキストをよく読んで参加する会員の熱意のお陰であるのは言うまでもないが、参加者をそのように仕向けるアジア系作家の文学そのものの魅力、吸引力のせいではないかと思っている。会員のアジア系アメリカ文学との出会いはさまざまであるが、共通していることは、文学を読む楽しさを味わうと同時に、アメリカに少数民族として生きるアジア系の人々の抱える問題を自身の生き方と関わらせて受けとめている点である。
東西ドイツの統一、ソ連邦の解体で脱イデオロギーの時代を迎えた世界は、21世紀に向けて経済、平和、環境、あらゆる領域でボーダレス化、グローバル化する方向にある。一方ではイデオロギーのタガで締め付けられていた民族的主張が各地で噴出、国家を分裂させる勢いになっている。60年代以降のアメリカでも従来のWASPへの一元的同化という論理に代えて、Ethnicityを肯定する多民族多元文化の論理が受け入れられてきた。それはアメリカの文化をより豊かに活性化するプラスの面と、一方では過激な民族的分離主義を生み出すことにもなっている。
各民族の持つEthnicityを尊重しつつ、なお国家としての統一体を保っていくことは、今後の世界の国々(日本も例外なく)の課題となっている。その意味でもアメリカにおけるアジア系の人々の存在とその文学は興味深い視点と洞察を与えてくれそうである。今後も研究会の学びがさらに深まり、海外の研究者との交流、他学会との学際研究の輪が広がることを期待したい。